相模原・豊国屋から幻の大豆「津久井在来大豆の蒸かし豆」。栗のように甘い!|からだに美味しいお取り寄せ(21)
出典:豊国屋
今回は、神奈川県相模原市の津久井地域を中心として栽培される絶品の大豆をご紹介します。
大豆は薬膳において、人間のエネルギー源である「気」を補う食材。疲労回復、滋養強壮、免疫力アップに威力を発揮します。
消化不良にもよく、お腹のはりを感じるときにもおすすめ。体内から老廃物を排出する解毒作用もあり、日ごろから積極的に取り入れたい食材ですね。
その大豆ですが、大豆ならどんな大豆でもOKでしょ!ではもったいない。津久井在来大豆を知れば、もう大豆の浮気はできなくなるかもしれませんよ。
もくじ
絶滅の危機に陥っていた津久井在来大豆と運命の出会い
出典:筆者にて作成(津久井在来大豆が栽培される相模原市。豊国屋もこの地に)
神奈川県北西部に位置する相模原市。横浜市、川崎市に次ぐ人口を有する政令都市ですが、相模川が横断し、東側には相模原台地、西側には丹沢山地・秩父山地と豊かな自然が残され、さまざまな農産物も育まれています。
「津久井在来大豆」は、市西部の緑区の旧・津久井郡地域を中心に、古くから栽培されていた在来品種。かつては県内各地で多くの農家が栽培していたものの、輸入大豆の流通とともに生産量が落ち込み、栽培が激減。「幻の大豆」といわれるほど絶滅の危機に陥っていました。
出典:筆者にて撮影(津久井在来大豆。県では津久井在来大豆から本来の特徴にもっとも近い大豆を選抜し、「相模原市系統」を産地標準系統としている)
けれど、県内各地で行われた「津久井在来大豆を守ろう」という懸命の取り組みによって、徐々に栽培が復活。
出典:筆者にて撮影(津久井在来大豆は6月ごろ種をまき、9月ごろふさがなる)
荷基準、一定の品質確保等の要件を満たす「かながわブランド」に登録されました。加工品の販売も増え、食通から高い評価を得る大豆として注目を浴びています。
「ほかの国産大豆と比べても各段に甘く、香りがいいんです」と津久井在来大豆の魅力を熱く語るのは、その味わいをいかした加工品を手掛ける「豊国屋」の店主である岡本政広さん。
津久井在来大豆の特徴は、大豆の代表品種であるエンレイよりも糖分が2.5パーセント以上高く、大粒であること。一方、タンパク質と脂肪分が少ないため、優しい甘みが堪能できること。
「こんなすごい大豆、ほかにはありません。蒸すとまるで『栗』のようなんですよ」。
市内南区に居を構える豊国屋は、1882年創業の酒蔵「豊国酒造」からのれん分けで開業した酒屋。もともと片瀬江の島で釣り船店を営んでいた政広さんは、奥さまの加代子さんの父から引き継ぐかたちで店主になりました。
出典:筆者にて撮影(岡本政広さんと奥さまの加代子さん。大豆パワーの効果か、おふたりとも元気。奥さまの美肌ったら!)
残念ながら酒蔵は30年前に廃業、本家の銘柄を販売することがなくなり、「たんなる酒屋ではなく、何か特色があるものを販売できないか」と模索していた政広さん
出典:筆者にて撮影(豊国屋では、全国からよりすぐった地酒、津久井在来大豆の加工品、発酵をキーワードに日本・世界各地の食品も販売)
大学の講座などで、発酵食、農業について学び、体験を重ねるなかで運命の出会いがありました。「たまたま、津久井在来大豆の味噌づくりに参加したんです。そのときに、ゆでた大豆を食べて、あまりの甘さにびっくりしました」。衝撃を受けるほど感動した政広さん。「すぐさま津久井地域の生産者のもとへとんでいきました(笑)」。
津久井在来大豆は、品種改良されていないため栽培に手間がかかります。さらに小規模栽培のため機械での作業が難しく、収穫もほとんどが手作業。
出典:相模原市農政課(津久井在来大豆が生育期のころの畑。紫色の愛らしい花をつける)
けれど津久井の宝である、大豆を絶やさない努力を続ける方々に出会った政広さん。
想いに賛同し、津久井の生産農家と連携するとともに、自身でも栽培のお手伝いをスタート。相模原の特産品として発信し、この美味しさを多くの人々と共有したいと、加工品の開発も手掛けることを決意しました。
とんでもなく甘く風味豊かな「きなこ」が起爆剤に
ただし、生産量が少ない津久井在来大豆は、加工品にすると一般的な大豆を使った商品よりはるかに価格が高くなります。
「地元では『売れるわけがない』とずいぶん言われましたね」と当時を振り返る政広さん。それでも干し納豆などを開発。そして津久井在来大豆が注目される起爆剤となった商品が「きなこ」でした。
「津久井在来大豆をきなこにすると、素晴らしい香り、そしてとんでもなく甘いんです」と政広さん。
出典:筆者にて撮影(津久井在来大豆を使った「津久井きなこ」。加代子さんは「これを食べてみて、きなこにはちゃんと味があったんだと気づいた」そう)
その甘さについてのエピソードがある。「食品分析センターへ検査に出したときに、連絡がきたんです」と加代子さん。「『大豆100パーセントは間違いではないですか? これ砂糖が入っていますよね』と連絡がありました。もちろん津久井在来大豆だけです(笑)」。
出典:筆者にて撮影(津久井きなこはヨーグルトやバナナにかけて食べるのがおすすめだそう。甘みがあるので、砂糖は不要!)
そんな絶品きなこは、新聞にも掲載されました。
「地元の洋菓子店から使いたい、と連絡があるんじゃないか」と期待に胸を膨らませていたおふたり。
「まったく、反応はありませんでした。がっかりしましたね……」と政広さん。
ところがある日、店にひとりの紳士がやってきた。「立派な風情の方で。『家内にきなこを買うようにいわれましてね』って」(加代子さん)。
じつは、紳士は誰もが知る神奈川銘菓メーカーの重役でした。自社で運営する甘味処の本わらび餅に使いたいと、取り扱いが決定。
「『地元・神奈川のきなこだから、利用されることにしたんですか?』と尋ねました」と加代子さん。
「そしたら『いえ、味で決めました』とおっしゃってくださったんです。うれしくてうれしくて。生産者の方にもすぐにお伝えしました」と加代子さんがしみじみ語ります。
津久井在来大豆の美味しさを最大限に引き出した蒸かし豆の缶詰
津久井在来大豆の力を実感した政広さんは、新たな商品の開発を進めました。
誕生したのは「津久井在来大豆の蒸かし豆」。気軽に津久井在来大豆の味わいを楽しめる、ドライパックの缶詰です。
出典:筆者にて撮影(津久井在来大豆の蒸かし豆。浸水した大豆を缶に詰め、缶の水分だけで蒸し上げてある)
「ゆでるよりも、蒸すほうが栄養や旨みが逃されず、津久井在来大豆そのものの美味しさをより、引き出すことができます」と政広さん。
津久井在来大豆の美味しさがギュッとつまった蒸かし豆缶を携えて、ご夫婦で積極的にマルシェや催事に参加。PRに努めた。
「試食してもらうと、舌が肥えた方が次々と買っていってくださいました」と笑顔を見せる政広さん。「子どもたちにも大人気です」と加代子さん。「子どもたちは本当に美味しいものがわかっているから、うれしいですね」
次第に、評判を聞いた大手百貨店からの引き合いが次々決定。グルメ誌などでも紹介され、リピーターが絶えない商品に成長しました。
出典:筆者にて撮影(豊国屋にも次々と津久井在来大豆ファンが訪れる)
料理が「ワンランク上の美味しさになる」奇跡の大豆
津久井在来大豆への岡本夫妻の熱い想いがギュッとつまった、蒸かし豆缶。開けてみると、つややかに輝く美しい楕円形フォルムの大豆たち。
出典:筆者にて撮影(缶から出した大豆。サラダ、煮物、スープ、何に使っても美味しく仕上がるそう)
まずはそのまま食べてみます。……えっ?
しなやかな歯ごたえ、ホックリとした口当たり、クリーミーな甘み。まさに「栗」のよう! ゆでたて落花生のようなコクもあります。
そして、雑味がいっさいなく、なんとも上品な味わい。素朴でどちらかというとパンチのある豆……そんな大豆の概念が変わります。これまで食べてきた大豆がなんだったのかと思うほど!
一つ食べるとまた、ついもうひとつ……と止まらなくなります。
加代子さんにオリーブオイルとの相性がいい、とお伺いしていたので、シンプルにオリーブオイルと塩をかけていただくと、ワインのおつまみにもぴったり。おなじみの「五目煮」のイメージがまったく異なる、洗練された味わいの大豆です。
岡本家の定番利用法は「ミネストローネ」に使うこと。「イタリアンに入れても、しっかり津久井在来大豆が『主張して』美味しくなります」。そして、カレーに入れるのもおすすめだそう。「肉より美味しいんですよ(笑)、しかも、時間が経つほど、やわらかくとろけるような美味しさになっていくんです」。
わたしも「津久井在来大豆薬膳」を作ってみました。まず「津久井在来大豆のパワーアップサラダ」。大豆同様、気を補う効果が高い鶏肉、ナガイモ、アボカドを組み合わせた疲労回復にうれしいサラダです。
大豆と、蒸した鶏むね肉を割いたもの、カットしたナガイモ、アボカドを合わせ、ヨーグルト、オリーブオイル、マスタード、レモン汁少々、塩で調味したドレッシングであえて、クコの実を散らします。
出典:筆者にて撮影(津久井在来大豆のパワーアップサラダ。ほっくりした大豆に、ナガイモのサクサク、とろりとしたアボカドと食感も楽しい一品)
優しい味わいの津久井在来大豆にはマヨネーズではなく、マイルドな味わいのヨーグルトのドレッシングがぴったり。そして、鶏肉やアボカドなどほかの食材と一緒になっても特有の品のよさが際立ち、サラダそのものの「格が上がる」ことに驚きます。ワンランク上の味わいになる!
そしてもう一品。大豆の解毒効果をいかした「津久井在来大豆のデトックス丼」。解毒に役立つ、高菜と黒きくらげと組み合わせたレシピです。
豚ひき肉と、大豆、刻んだ高菜、黒きくらげをにんにく、しょうがとともにごま油で炒めて、しょうゆ・みりん・酒で味付けします。ごはんの上にのせて、卵の黄身を落として完成。
出典:筆者にて撮影(津久井在来大豆のデトックス丼。高菜と大豆の相性はバツグン。黄身がとろりとからまった大豆の美味しさもひとしお)
中華風の味付けは津久井在来大豆には強すぎるかと思いきや、味わいはまったく消えず、旨みや甘みは際立ったまま。加代子さんが語っていたとおり「しっかりと主張」しています。
そのうえ、料理そのものの美味しさがグンとアップ。ほかの大豆で作ったときよりも、あきらかに美味しいのです。
料理をワンランク上の味わいに仕上げてくれる津久井在来大豆のパワーにただただ、唸るばかり。津久井在来大豆は「料理上手になれる大豆」でもあるのです。
現在、豊国屋の津久井在来大豆加工品は、味噌、納豆、ドレッシング、テンペから、煎り豆や、クッキーなどのスイーツ、さらに大豆を焙煎したコーヒーまで、じつに多彩なラインナップが揃います。
出典:筆者にて撮影(豊国屋で人気を誇る津久井在来大豆加工品。津久井在来大豆の納豆に米糀と醤油を加えた「納豆糀漬け」、煎り豆にした「ふく豆」など)
津久井在来大豆の納豆も人気商品。上品でねばりがクリーミーでマイルド。クセがなく、こんなに「エレガントな納豆」はお目にかかったことがありません。タレで味を消すよりも、オリーブオイルと塩でいただくのがおすすめ。
出典:筆者にて撮影(「津久井の納豆」。遠方からわざわざ買いに来るお客さんも)
いずれもすべて無添加。「基本は蒸すだけ、煎るだけ、などシンプルなものがほとんどですが、美味しく仕上がります。それだけ津久井在来大豆に『力がある』のでしょうね」と加代子さんがしみじみ語ります。
津久井在来大豆とともに歩んできた岡本夫妻。「津久井在来大豆そのものの認知度は、出会いのころに比べると県内、県外ともに格段に上がりましたね」と政広さん。栽培を手掛ける人も増えてきたのだそうです。
出典:筆者にて撮影(岡本さんと津久井在来大豆)
一時期は消滅しそうになったものの、機会を得て息を吹き返した津久井在来大豆。大豆の粒がさやからはじけるように、相模原から勢いよく日本各地に飛び散ってファンを増やし、なんと納豆糀漬は海を越えてアメリカでも好評を博しているのだそうです。
力があふれる、美味しい大豆を、ぜひ味わってみてくださいね。
■「津久井在来大豆の蒸かし豆」をはじめ、津久井在来大豆加工品は、豊国屋オンラインショップにてお買い求めください。