災害時に不足しがちな栄養素を補う方法/防災の基礎知識(2)
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大きな災害が起きたときにやるべきことはまず命を守る行動です。そして、無事に命が守られたら次は健康を維持しなくてはいけません。この記事では、災害時に不足しがちな栄養素を補う方法を、管理栄養士によるおすすめ食品とレシピとともにご紹介します。
災害時は乳製品や肉類、野菜が不足しがち
出典:大手前大学PR事務局
国際災害栄養研究室の論文より作成
2011年の東日本大震災後に行われた調査によると、避難所における食事状況は決して良いとは言えず、多くの食品が不足していたことがわかりました。上のグラフを見ると、特に乳製品や肉類、そして野菜の不足が目立っています。これは避難所での食事の多くがおにぎりやパンなどになってしまうことが理由のひとつです。避難所に限らず、ご自宅で用意しているものであっても備蓄用の食品は炭水化物が多くなる傾向にあります。
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大手前大学健康栄養学部栄養学専攻の本多美預子先生は、上記のような食品が不足することで食物繊維や各種ビタミン、ミネラルなどの栄養素の不足を招き、上表のような症状が出る恐れがあると言います。
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そこで本多先生がおすすめするのは、不足しがちな栄養素を摂ることができる食品を備蓄しておくこと。普段の料理でも使うことができる食品をローリングストックをしながら備蓄しておくことで、災害時の栄養不足を補うことができます。
栄養不足を防ぐ、備蓄食品を使ったレシピ
本多先生おすすめの食品を使った、災害時でも調理可能なレシピをご紹介します。災害時ならではの調理方法なども教えていただきました。
◆鯖缶とトマト缶のカレーライス
出典:大手前大学PR事務局
【材料】(1人分)
- カレー
鯖缶(水煮)…1/2缶(90g)
トマト缶…1/4缶(100g))
玉ねぎ…1/4個(40g)
カレールウ...1個(20g)
おろししょうが…2g
- ライス
無洗米…1/2合(75g)
水...110ml
【作り方】
1. 耐熱のポリ袋にお米と水を入れ、夏場は30分、冬場は1時間吸水させる。
2.1のポリ袋の空気を抜きながら口を縛り、結び目に箸を通す。
3. 鍋の中にに皿を敷いてお湯を沸かし、沸騰させる。
4. カレールウは包丁で細かく刻み、玉ねぎは薄くスライスしておく。
5. 1とは別の耐熱のポリ袋に4と鯖、トマト、おろししょうがを入れ、空気を抜いて口を縛り、結び目に箸を通す。
6. 3が沸騰したら、鍋のふちに2と5の箸をのせ、ポリ袋がふちに当たらないようにしずめ、中~弱火にし、30分間蓋をして加熱後火を止め、そのまま10分程ポリ袋の中で蒸らす。
7. 器にポリ袋のままのせる。
【このレシピのポイント・注意点】
・鍋1つで炊飯と調理ができます。
・鯖缶の生臭さが気になる方は、生臭さが少ない味噌煮缶に変えるか、おろしにんにくを入れてみてください。
・加熱時はなるべく鍋肌にポリ袋がつかないように気をつけてください。
・鍋の湯はポリ袋の具材がしっかり浸かる量を用意してください。
・無洗米の水の量は多めにしましょう。(米:水 =1:1.45)
・無洗米でなくても、洗米をせずに炊くことができます。
【このレシピで補える栄養素】
・トマト缶…食物繊維、ビタミンA、ビタミンB群、カリウム
・鯖缶…たんぱく質、ビタミンB群、ビタミンD、カルシウム
出典:大手前大学PR事務局
災害時、水は大変貴重です。節水のため、器にラップをかけるか、ポリ袋のまま器にのせて、洗わないで済むようにしましょう。
◆豆乳ラーメン
出典:大手前大学PR事務局
【材料】(1人分)
インスタントラーメン(フライ麺)...1袋
ツナ缶(食塩・オイル無添加)…1/2缶(35g)
豆乳(無調整)…200ml
水...400ml
すり白ごま…小さじ1(3g)
乾燥にんじん…5g
乾燥ねぎ...0.2g
【作り方】
1. 鍋に、袋から取り出した麺と水と乾燥にんじんを入れ、沸騰させる。
2. 鍋の湯が半分になり、麺が透明になってきたら、豆乳と付属のスープを入れる。
3. 豆乳を沸騰させないように、弱火で2~3分加熱する。
4. 3にツナ、すり白ごま、乾燥ねぎをトッピングする。
【レシピのポイント・注意点】
・お鍋1つでできます・
・「JAS規格」のマークがあるインスタントラーメンの多くは、カルシウムやビタミンB1、B2が強化されています。
・インスタントラーメンは食塩や脂質が多いため、ツナ缶は食塩・オイル無添加を使っています。
・豆乳を料理に使う場合は、無調整豆乳がおすすめです。
・乾燥野菜や魚介缶、豆乳などと一緒に食べると、栄養バランスの取れた食事に近づきます。
【このレシピで補える栄養素】
・ごま…たんぱく質、脂質、食物繊維、カルシウム、鉄、ビタミンE
・豆乳…たんぱく質、カルシウム、鉄、マグネシウム、イソフラボン
・ツナ缶…たんぱく質
・乾燥にんじん…食物繊維、カルシウム、鉄、ビタミンA
◆過剰摂取しがちな栄養素にも要注意
冒頭にあるグラフでは、実は不足していた食品と同時に過剰になってしまっていた食品のデータもあり、穀類が他に見ない割合で過剰になっていることがわかります。災害時の避難所の食事では、どうしてもおにぎりやパン、カップ麺などの炭水化物が多くなりがちです。本多先生によれば、「炭水化物の摂りすぎ」=「糖質の摂りすぎ」となり、肥満や糖尿病のリスクを高めてしまうそう。またインスタント食品や加工食品は食塩が多く含まれているため、高血圧症のリスクが高まる恐れもあります。
本多美預子先生/大手前大学健康栄養学部栄養学専攻准教授。著書は『テキスト 食物と栄養科学シリーズ8 栄養教育論 (第2版)』/朝倉書店、『栄養教育・指導実習ワークブック』/梅田出版など。
(リリース提供元)
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