【酒造り】お酒に関連する全国の神社・お寺6選【日本三大酒神神社】

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日本において、お酒は単なる嗜好品ではなく、古来より神様と人とを結びつける神聖なものとして扱われてきました。発酵という現象が科学的に解明される以前は、酒造りは自然の力、すなわち神の御業と考えられていたため、醸造の過程には必ず神々への祈りが捧げられます。
特に、五穀豊穣の神は、米を原料とするお酒造りの守護神として信仰を集めました。その信仰の中心地は古代より酒造りの発祥や技術革新に深く関わってきた特定の地域にあり、全国の蔵元や醸造業者はこれらの聖地に対し醸造の安全と商売繁盛を祈願する伝統的な参拝を今も続けています。
また、酒蔵の軒先に飾られる杉玉など、信仰に由来する文化も各地に根付いています。
もくじ
お酒に関連する神社・お寺6選
【松尾大社】(京都府京都市西京区)
出典:公式ホームページ (酒樽が並ぶ神輿庫)
松尾大社(まつのおたいしゃ)は京都市西京区に鎮座し、京都最古級の神社の一つです。東の八坂神社と並び古来より都の西を守る皇城鎮護の神として崇敬されてきました。
御祭神は松尾山の山霊を神格化した大山咋神(おおやまぐいのかみ)と、宗像三女神の一柱である市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)です。
特に大山咋神は古代にこの地に移り住み、酒造りを得意とした渡来系氏族秦氏との関わりから、醸造の祖神とされ室町時代以降「日本第一醸造神」として全国の酒造家や味噌、醤油など醸造業者から篤い信仰を集めています。
境内には全国の酒造会社から奉納された酒樽が並ぶ神輿庫があり、その信仰の深さを物語っています。
また、「お酒の資料館」(無料)では、日本酒の歴史や酒造りの道具などを展示し、松尾大社と酒の文化との関わりを紹介しています。
本殿裏手にある「亀の井」は、延命長寿や蘇りの水として知られる霊泉で、「この水を酒の仕込みに使うと酒が腐らない」という言い伝えがあり、今も酒造家が水を汲みに訪れます。さらに、毎年春には全国の蔵元が集まる「松尾大社 酒-1グランプリ」も開催されるなど、お酒にまつわる文化が色濃く残る神社です。
住所:〒616-0024 京都府京都市西京区嵐山宮町3
地図:https://maps.app.goo.gl/LYVZJqxzM2ATsqez6
【三輪明神 活日神社】(奈良県桜井市)
出典:公式ホームページ (三輪明神 活日神社)
活日神社(いくひじんじゃ)は奈良県桜井市にある大神神社の摂社で、酒造りの職人である杜氏(とうじ)の祖神として、全国の醸造関係者から深く信仰されています。
ご祭神は高橋活日命(たかはしいくひのみこと)で『日本書紀』によると崇神天皇の時代に疫病が流行した際、大神神社の祭神である大物主大神(おおものぬしのおおかみ)のお告げにより活日命が一夜にして神酒(みき)を醸造しこれを大神に献じたところ、疫病が治まり国が平穏になったと伝えられています。
このことから、活日命は「掌酒(さかびと)」すなわち酒造りの責任者として、杜氏の祖神と崇められるようになりました。古くは「一夜酒社(ひとよさけのやしろ)」とも呼ばれていたとされます。
活日命がその時に詠んだ和歌は、現在も大神神社の「醸造安全祈願祭(酒まつり)」で「うま酒みわの舞」という神楽として奉納されています。
この酒まつりでは、全国から集まった酒造関係者が活日神社にも参拝し、酒造りの安全と繁栄を祈願します。
住所:〒633-8538 奈良県桜井市三輪1422
地図:https://maps.app.goo.gl/Dmd3YSKCq1VR5u6X9
【梅宮大社】(京都府京都市右京区)
出典:公式ホームページ (梅宮大社 鳥居)
梅宮大社(うめのみやたいしゃ)は京都市右京区に鎮座する古社で、京都の松尾大社、奈良の大神神社と並ぶ「日本三大酒神神社」の一つです。
ご祭神は、筆頭に酒解神(さけとけのかみ。大山祇神の別称)と、その娘の酒解子神(さけとけこのかみ。木花咲耶姫命の別称)など四柱を祀っています。酒解神は木花咲耶姫命が出産の際に初めて穀物からお酒を造り、神々に献じたという神話から酒造りの祖神とされ全国の酒造関係者から篤く信仰されています。
境内には、全国各地の酒蔵から奉納された酒樽が楼門などに掲げられており、信仰の篤さを物語っています。
毎年4月の中酉祭(なかとりのまつり)は、酒造りが無事に終了したことを感謝し、新酒を献上するお祭りとして知られています。四季折々の花が美しい神苑(有料)も有名で、特に梅の名所としても親しまれています。
住所:〒615-0921 京都府京都市右京区梅津フケノ川町30
地図:https://maps.app.goo.gl/TzEoQPEsR259J6ri6
【北野天満宮】(京都府京都市)
出典:公式ホームページ (北野天満宮 本殿)
北野天満宮(きたのてんまんぐう)は京都市上京区に鎮座し、菅原道真公を主祭神として祀る全国約1万2千社の天満宮・天神社の総本社です。道真公が学問の神様として崇敬されることから、学業成就や受験合格の祈願で特に有名です。
また、京都では松尾大社・梅宮大社と並び、酒造家が蔵入り前と造り終わりに参拝する「三社詣り」の対象とされてきました。
これは、道真公が平安時代に蔵人頭(くろうどのとう)という朝廷の要職に就き、酒造りの要である麹(こうじ)造りを司る部門と縁が深かったことに由来するとされています。
近年では、梅にちなんだイベントとして、「厳選梅酒まつり」が開催されることがあり、全国の酒蔵が造る多種多様な梅酒の飲み比べや即売会が行われ、多くの来場者で賑わいます。
また、正月に授与される「大福梅(おおふくうめ)」は、元旦に白湯や御神酒に浸して飲むことで、一年の無病息災を祈る縁起物です。
住所:〒602-8386 京都府京都市上京区馬喰町
地図:https://maps.app.goo.gl/vpyDUuKkJ9ctKthA8
【菩提山 龍華樹院 正暦寺】(奈良県奈良市)
出典:公式ホームページ (紅葉と菩提山 龍華樹院 正暦寺)
正暦寺(しょうりゃくじ)は奈良県奈良市に位置する「日本清酒発祥の地」として名高い真言宗の寺院です。平安時代に創建された格式高い古刹ですが、室町時代に寺院の財政基盤を強化するため、酒造りに力を入れました。ここで造られた酒は「僧坊酒(そうぼうしゅ)」の一つとして「菩提泉(ぼだいせん)」という名で京の貴族や武家に愛飲されました。
この寺で確立された画期的な酒母(しゅぼ)の製法が、現在の清酒のルーツとされる「菩提酛(ぼだいもと)」です。菩提酛は、乳酸菌の力で雑菌の繁殖を防ぐ酸性の水「そやし水」を使うのが最大の特徴で、これにより当時難しかった夏季の醸造(夏酒)をも可能にしました。この高い品質と安定供給の技術は、後の日本酒造りの発展に大きな影響を与えたと評価されています。
江戸時代に酒造りの技術は途絶えましたが、平成時代に入り「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」の尽力により復活を遂げました。
正暦寺は日本の寺院で初めて酒母製造免許を取得し、現在も境内で酒母を仕込み、奈良県内の複数の酒蔵がこれをもとに「菩提酛仕込みの清酒」を醸造・販売しています。
毎年1月には一般見学も可能な「菩提酛清酒祭」が開かれ、その伝統が今に伝えられています。
また、境内は「錦の里」と呼ばれるほどの紅葉の名所としても知られています。
住所:〒630-8413 奈良県奈良市菩提山町157
地図:https://maps.app.goo.gl/g9jegLMc2qgVZsQ46
【佐香神社】(島根県出雲市)
出典:出雲観光協会(佐香神社 本殿)
佐香神社(さかじんじゃ)は島根県出雲市に鎮座し、「酒造り発祥の地」の一つとして知られる古社です。別名を「松尾神社」とも呼ばれ、京都の松尾大社と並び、酒造関係者から深く崇敬されています。
ご祭神は、主祭神として酒の神様である久斯之神(くすのかみ)を祀っています。この神様は酒造りを始めた神として信仰されています。
お酒に関する最も重要な伝承は奈良時代に編纂された『出雲国風土記』に記されています。そこには「百八十神等が集まり、酒を醸させて酒宴を開いた」との記述があり、「酒宴」を意味する「サカミズキ」の「サカ」が地名「佐香」の由来となり、酒造りの始まりの地と伝えられています。
佐香神社は、現在でも酒造免許を保有しており、年に一度、濁酒(どぶろく)を醸造することが許されています。毎年10月13日に執り行われる秋季例祭(濁酒祭)では、この御神酒(濁酒)が参拝者に振る舞われ、多くの酒造関係者や参拝客で賑わいます。
また、島根県の酒造好適米である「佐香錦(さかにしき)」は、この神社の名前に由来しており、地域における酒造りとの結びつきの深さを物語っています。
住所:〒691-0074 島根県出雲市小境町108
地図:https://maps.app.goo.gl/1J2fWANX3DRz6LwQ7